リアルカラーは不可、昔からの「色」が必須ということも

 分かりやすい例があります。胃カメラの画像の色です。もちろんナナオの技術を使えば「本物」と同じ色でディスプレイに映像を映し出せます。しかし、これでは受け入れられないのです。胃カメラが最初に導入され、診断技術が培われ始めた当時の「色」、これを求められるのです。

 医師は当時の色を使って診断方法を学び、その色を継承する機器を使い続けています。ここで突然「リアルな色で表示できます」と言っても、これまでの経験が生かせない「使えない色」としか評価されないのです。もちろん現在の製品でも、これまで同様の色を再現する技術を使っています。

――今後の戦略はどのようになるのでしょう。医療のほかに狙う市場はありますか。

 まずは医療市場でさらに積極展開します。特に手術室とソリューション提案の2分野は可能性があると見ています。

暗室タイプの検査ブース。医療向け製品は全数、品質をチェックする(撮影のためブースのカーテンを開けて作業)。
(写真:山岸 政仁)
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 手術室はこれまで、処置によって部屋が分かれていました。例えば、カテーテル用、内視鏡用というように。これからのトレンドは「ハイブリッド」です。1つの手術室で様々な手術を行う。そのために必要なディスプレイは何かを研究、開発しています。もちろん、メーカーからの提案を押しつけるのではなく、医師がこれまで築き上げてきた手術のノウハウを生かせるよう、自由度の高い設定を可能にします。

 ソリューションは、主に医療機器メーカーへの提案となります。ナナオとしては同じ製品提案でも、それを搭載する医療機器によって、求められる仕様やシステムが違ってきます。ある大手医療機器メーカーは1つの医療機器にディスプレイとマネジメントシステムをセットにして販売するし、ほかの大手メーカーは複数の医療機器を使ったシステムを構築し、それらに合わせたディスプレイを要望してきます。それぞれのニーズに合わせた製品をソリューションとして提案できるディスプレイメーカーが必要になる、というわけです。この傾向は2、3年前から始まっています。

次に狙うのは介護、福祉

 医療分野だけでは、いつか成長は鈍化します。その前に新たな市場を探すつもりです。注目しているのは、介護と福祉。特に介護は可能性があると見ています。ただ、具体的にどこを攻めればいいのか、模索している段階ではあります。

 介護、福祉のどちらにしても、技術を製品化する我々とのつながりが希薄だと感じています。あちらのニーズもつかめていないし、こちらの製品やそれを使う利点も伝わっていない。かつて、視覚障害を持つ人向けのディスプレイを開発したのですが、まったく売れませんでした。売れたのは、その障害を持つ人向けのソフトウエアを開発している企業が製品開発に活用するためだけ。その先にいる、「ユーザー」まで届きませんでした。介護や福祉についても、これと同じような感触です。なんとなくニーズはあると感じているが、それがなにか分からない。

 もちろん、短期で開発できるものとも考えていません。2年、3年というよりは、もっと長い期間を使って、ユーザーのニーズをしっかり把握し、製品を開発しようと考えています。これも、ディスプレイの総合メーカーだからできることでしょう。